ルネサンスは中世後期にフィレンツェで発祥しました。
当時、家計の中の被服費の占める割合は大きく、富裕層は多色のシルクやサテン、模様入りのベルベットやブロケードといった豪華な素材を求めていました。チューダー朝やエリザベス朝のもとで人々は自然に親しみ、牧歌的な理想への憧れを抱いていたため、動植物を描いた質感豊かな柄が出回りました。そして装いのあらゆるものに一面の刺繍が施されました。
当時良家の女性の多くがたしなんでいた有名な「ブラックワーク刺繍」に用いられた多くの柄は、リピートの多い様式化されたものでした。
エリザベス朝のプリント柄は当時描かれていた細密画をもとに、チューダー朝の柄はハンス・ホルバインの絵画をもとに制作されました。
メディチ家のドレスや、フランス・プールビュスが描いた「マリー・ド・メディシス」の肖像画にあるような宝石や真珠の装飾に敬意を表した柄です。このデザインではジュエリー感覚をより抽象的で控えめなプリント柄として扱っています。装飾的な花の柄を手描きした上に、メディチ家が愛した美しい真珠貝(マザー・オブ・パール)の表面の層を重ね合わせることで、まるで大切な宝石箱のような上質感を与えます。
18世紀に飾り気のない無地のコットン・キャラコは多くの人々に洗濯の利く耐久性に優れた素材として広まりました。この柄は折り畳んだキャラコをもとに描かれています。畳んだメタルやフォイルをグワッシュで色付けすることで、18世紀の経済や社会の変化に大きな役割を果たしたこの素材の質感と丈夫さを表しています。
1545年にオーガスタス・ブロンズィーノが描いたルネサンス絵画「本を持つ少女の肖像」の構造やモチーフを取り入れた柄です。少女たちのシャツには真珠の刺繍が入り、より面白味のある柄構成にするために、ウフィツィ美術館のニオベの間の天井の美しいイメージが加えられました。フィレンツェのウフィツィ美術館は大公のフランチェスコ1世・デ・メディチの命により建設されました。柄はロータリー・ペンを使って手描きされています。
レースをモチーフにした大柄のデザインで、エリザベス朝の細密画にもよく描かれている16世紀に着用されていたひだ襟(ラフ襟)をもとにしています。初めにミニチュア・サイズで描いたものを拡大し、大胆でモダンなツートン・カラーの柄に仕上げました。
細密画の細部までを、点描画のように捉える繊細な筆さばきを表現した柄です。初めは宝石を中心とした柄でしたが、層が重なり合うように、階層化して描くことでより質感のある美しい柄になりました。
面を刺繍などで飾ることを重視していたエリザベス朝時代に着目したデザインです。この柄は、ニコラス・ヒリアードなどのミニチュール作家の作品によく見られる女性のベストの柄として人気のあった複雑な花柄を表現しています。ヒリアードは絵の中で生地の表面の柄の細部まで描写することを楽しんでいました。
ハンス・ホルバインの絵画に登場する貴族や聖職者の衣装にある複雑な柄からとったものです。プリント柄の中心になっているモチーフは、チューダー王朝時代に人気のあったザクロを参考にしてデザインしました。
ハンス・ホルバインの絵画に描かれる貴族の衣装を飾る美しく繊細なブラックワーク刺繍の「ホルバイン・ステッチ」をヒントにしています。ブラックワークは昔行われていた刺繍の一種で、通常黒の糸を使い大きな花の柄を表現します。アンダーソンはこの手法に現代的解釈を加えました。